鉄瓶

 鉄瓶を購入してから3か月が経った。気に入っている。容量が1Lしかないため、日に何度も湯を沸かさねばならないという厄介はあるが、それでも買ってよかったと思っている。扱いに慣れた今では、沸騰がおさまらないうちに蓋をして口から湯を吹きこぼさせたり、熱気で火傷しかけたりすることもない。3口コンロの左下は、すっかり鉄瓶の定位置となった。

 

 鉄瓶を買うまでは味噌汁も麦茶も同じ行平鍋で作っていたのだが、たびたび不便を感じることがあり、やかんを新調することにした。学校給食で使われているようなアルミ製のものを買う予定でいたが、いろいろな商品を見たり、材質について調べたりするうちに、鉄瓶が候補に浮上した。鉄瓶で沸かした湯は、まろやかでおいしいうえに鉄分が豊富らしい。また、長く使うと鉄の経年変化が楽しめるようだ。実用性を考えて、軽くて大容量のものを探していたのだが、結局「一生もの」という文句が背中を押し、鉄瓶を買う決心をした。この決心から望みの鉄瓶に出会うまでに半年ほど時間を要することになるのだが。

 

 湯がおいしいというのは魅かれたポイントのひとつではあるものの、正直あまり期待していなかった。劇的な違いがわかるような繊細な味覚が、自分に備わっているとは思えなかったからである。ところが、予想に反しておいしかった。無味なのである。「無味」がおいしさを表現する言葉として適切かどうかは疑問が残るが、無味としか言いようがない。茶葉を使わなくとも、湯のまま十分おいしく飲める。

 

 手のかかる子ほどかわいいという言葉があるけれど、鉄瓶は中に水を入れっぱなしにさえしなければ、洗う必要もない。鉄瓶は、手間のかからないかわいい奴である。かわいい鉄瓶を粗悪な環境に置いておけないという親心のおかげで、シンクまわりも清潔に保つことができている。